1-8では人気のサプリを一個ずつ見ましたが、実際に迷うのは「組み合わせ」の方なんですよね。最近よく出回っているのが、「体のどこが詰まっているか(律速段階)を見つけて、そこを外す」っていうエンジニア的な発想でサプリを組むやり方です。考え方としてはすごく筋がいい。ただ、元になったレポートの主張を論文と突き合わせてみると、そのまま残るもの、条件付きで残るもの、もう古くなっているものに分かれました。ここでは1-8までに書いていない話だけを拾っておきます。要点は、各ホルモンの項の「増やす栄養」にも足してあります。
先に一番大事なことを書いておくと、律速段階を外して効くのはそこが本当に詰まっている人だけです。注意点と限界で書いた「足りている人が上乗せしても上がらない」は、組み合わせても変わりません。
ホウ素:「総テストステロン」から「実際に使える分(フリー)」へ
考え方:血中のテストステロンは、大半がSHBG(性ホルモン結合グロブリン)やアルブミンっていうタンパク質にくっついて運ばれていて、受け皿にそのまま届く「フリー」の分はほんの数%です。だから「総量」だけ見ていると体感とズレることがある。そこでSHBGを下げてフリーの分を増やそう、っていうのがこのアプローチです。
実際の根拠:よく引用されるのは2011年の研究で、健康な男性がホウ素を1日10mg飲んだら、6時間でSHBGが下がり、1週間でフリーテストステロンが約3割増えて、エストロゲンと炎症の指標は下がった、というものです。ただし対象はたった8人、期間は1週間。面白いけど、これだけで「劇的に増える」とは言えません。
気をつけるところ:よく勧められる「1日6〜10mg」は、ヨーロッパの食品安全機関(EFSA)が決めた成人の上限(1日10mg)ぎりぎりです(アメリカの上限は20mg)。それと、SHBGは「低いほどいい」わけでもありません。低すぎるSHBGはインスリン抵抗性(糖尿病の手前)のサインでもあるんです。まず血液検査で総テストステロンとSHBGを測って、本当に「SHBGが高くてフリーが低い」のかを確かめてからの話ですね。ちなみにホウ素は、プルーンやレーズン、ナッツ、アボカド、豆類にも普通に入っています。
トンカットアリ:「怪しい精力剤」から「根拠はそこそこ、品質は要注意のハーブ」へ
ひっくり返ったこと:マカが「テストステロンを上げない」側に落ち着いたのと対照的に、トンカットアリ(ユーリコマ・ロンギフォリア)は2022年のメタ分析(臨床試験を束ねて計算し直す研究です)で、総テストステロンを有意に上げるという結果が出ました。健康な人でも、もともと低めの男性でも上がった、という報告が中心です。
ただし:束ねられた試験は少なく(計算に使えたのは5本)、どれも小規模です。そして「なぜ上がるのか」はまだはっきりしていません。「SHBGとの結合を邪魔してフリーを増やす」「脳から精巣への指令(HPG軸)を後押しする」といった説明はよく見かけますが、確定した話じゃないので、そこを売り文句にしている商品は割り引いて見てください。
気をつけるところ:実はこっちの方が大事です。マレーシアで売られていたトンカットアリ製品100種を調べた研究では、約4分の1で水銀が基準値を超えていました。ED治療薬(シルデナフィル)がこっそり混ぜられていた例も報告されています。EFSAも2021年に、根の抽出物は動物試験でDNAを傷つける可能性が示されたとして、安全性を確認できないと判断しています。使うなら、第三者機関の検査を通った製品に絞るのが最低ラインです。
組み方のアイデア:アシュワガンダは「コルチゾールのブレーキを外す」、トンカットアリは「作る側を後押しする」と、狙っている場所が違います。なので「アシュワガンダの休薬期間にトンカットアリへ切り替える」っていう組み方は、理屈としては噛み合っています。ただ、この切り替えそのものを試した研究はありません。あくまで設計上のアイデアです。
「プレグネノロン・スティール」:「ストレスで材料を奪われる」はもう古い説明
ひっくり返ったこと:「コルチゾールとテストステロンは同じ材料(プレグネノロン)から作られるから、ストレスでコルチゾールに材料を奪われると、テストステロンが作れなくなる」。サプリの解説で今でもよく見る説明ですが、これは否定寄りです。ステロイドホルモンは、それぞれの細胞の中でコレステロールから作られます。副腎の細胞と精巣の細胞が、材料のプールを共有しているわけじゃないんです。
つまり:ストレスでテストステロンが下がること自体は本当です。ただ経路が違っていて、ストレス系が脳から精巣への指令(GnRH→LH)を抑えることと、精巣側にも直接ブレーキがかかることが本体です。テストステロンの項で書いた「シーソー」は、材料の取り合いじゃなくて、指令系統の優先順位の話なんですね。
実践的な意味:「材料を奪われているなら、材料(プレグネノロンやDHEA)を足せばいい」っていう発想は成り立ちません。効くのは相変わらず、睡眠を確保して慢性ストレスを減らす方です。
クレアチン:「筋トレ用の粉」から「寝不足の脳の予備バッテリー」へ
ひっくり返ったこと:クレアチンは、ATP(細胞のエネルギー通貨)を使い切った瞬間に作り直す「予備バッテリー」です。筋肉の話だと思われてきましたが、脳は体重の2%しかないのにエネルギーの約2割を使う大食らいなので、脳にも効くんじゃないか、と。2024年のメタ分析(16本・約500人)では、記憶・注意・処理スピードに効果が出ました。一方で「頭の良さ全般」や実行機能(計画や切り替え)には、はっきりした差が出ていません。
面白いのが、同じ2024年に『Scientific Reports』に出た実験です。徹夜中に高用量を1回飲むと、3時間後くらいから処理スピードと短期記憶の落ち込みが和らいで、効果は最大9時間ほど続いた。「エネルギーが足りない状態の脳」ほど効きやすい、ってことですね。肉や魚をあまり食べない人ほど効きやすい傾向も、以前から指摘されています。
もう一つひっくり返ったこと:「クレアチンを飲むとハゲる」。これは2009年に、ラグビー選手でDHT(脱毛に関わる男性ホルモン)が上がったという1本の研究が発端でした。2025年に12週間のランダム化比較試験で確かめ直したところ、DHTも毛髪も変化なしでした。
使い方と注意:普通はクレアチン・モノハイドレートを1日3〜5g。飲む時間はあまり関係ありません。徹夜実験の量(体重1kgあたり0.35g、60kgなら約21g)は研究用で、日常的にやるものじゃないです。腎臓の病気がある人は医師に相談を。それと、飲んでいると血液検査の「クレアチニン」が上がって腎機能が悪く見えることがあるので、健康診断の前には伝えておくと安心です。
朝のAlpha-GPC+ALCAR:「材料を揃えればアセチルコリンが増える」の理屈と、見落とされがちなリスク
理屈:アセチルコリンは「コリン」と「アセチル基」から作られます。そこでコリンをAlpha-GPC(アルファGPC)で、アセチル基とエネルギーをALCAR(アセチル-L-カルニチン)で同時に入れて、合成の詰まりをまとめて外そう、っていうのがこの組み合わせです。
現実:アセチルコリンの項で書いた通り、健康な人への上乗せ効果は弱いです。脳の中でアセチルコリンを作るペースは、神経の活動に合わせてコリンを取り込む「入口」で調整されているので、血中の材料を増やしてもそのまま増えるわけじゃないんです。ALCARも、高齢者の軽い認知の衰えや疲労感では研究がありますが、若くて健康な人の頭が冴えるというはっきりした証拠はまだありません。
気をつけるところ:ここがこの組み合わせで一番大事な話です。コリンもカルニチンも、腸内細菌がTMA(トリメチルアミン)に変えて、肝臓でTMAOっていう物質になります。TMAOは動脈硬化や血栓との関連が指摘されている物質です。つまりこの組み合わせは、TMAOの材料を二重に入れていることになるんですね。実際、2021年に韓国の約1200万人のデータを使った研究で、Alpha-GPCを使っていた人は10年後の脳卒中リスクが高く、使った量が多いほど高かったと報告されています(観察研究なので、因果関係までは言えません)。
よく「ニンニクエキスやレスベラトロールでTMAOへの変換をブロックできる」と言われますが、これは主にマウスでの話で、人で確かめられた対策ではありません。毎日続けるなら、対策を足すより量と期間を絞る方が確実です。
それと、コリンを摂りすぎると頭痛やイライラ、気分の落ち込みを訴える人がいて、ネットでは「コリン鬱」と呼ばれています。医学用語ではないですが、「アセチルコリン系が強すぎると気分が沈む」っていう仮説自体は昔からあります。朝と夜の両方でコリンを入れる組み方は避けた方が無難です。
夜のウリジン+DHA+コリン:「シナプスの材料キット」は、記憶力アップより認知症の入り口の話
理屈:シナプス(神経のつなぎ目)の膜は、ウリジン・DHA・コリンの3つが揃うと作られるペースが上がる、というMITのグループの研究が元になっています。動物実験では、3つを一緒に与えるとシナプスの数やシナプスのタンパク質が増えました。
人ではどうだったか:この組み合わせにビタミンB群などを加えた医療用の栄養飲料が、アルツハイマー病で試されています。軽度〜中等度まで進んだ人では効果なし。ごく初期(前駆期)の人では、主な評価項目では差が出なかったものの、認知と日常機能を合わせた評価の悪化や、海馬の萎縮はゆっくりになった、という結果でした。なので今の位置づけは「弱り始めた脳の進行を遅らせるかもしれない」で、健康な人の記憶力を上げるという証拠はありません。
小さな訂正:「海藻(藻類)由来のDHAは酸化しない」はよく見る誤解です。DHAは由来に関係なく酸化しやすい脂肪酸です。藻類由来のいいところは、菜食の人でも摂れることと、魚の水銀などの汚染を避けやすいこと。開封したら冷蔵して、生臭さが強くなったら捨ててください。
もし重ねるなら:時間割と根拠の厚み
レポートの時間割を、ここまでの確認結果で整理し直すとこうなります。根拠の厚みは○=人の試験でそこそこ根拠あり、△=小規模・条件付き・動物中心です。
| いつ | 何を | 何のため | 根拠の厚み |
| 朝食と一緒 | ビタミンD3(+K2) | 不足の補正。脂溶性なので食事と一緒に。K2は増えたカルシウムを骨に回す係、という理屈です | 不足している人に○(K2の上乗せは△) |
| 朝食と一緒 | ホウ素 | SHBGを下げてフリーテストステロンを増やす狙い。1日10mgを超えない | △(8人・1週間) |
| いつでも | クレアチン 3〜5g | 脳と筋肉の予備バッテリー。寝不足の日ほど意味がある | ○ |
| 朝 | Alpha-GPC+ALCAR | アセチルコリンの材料。量と期間を絞る | 健康な人には△。TMAOに注意 |
| 夜 | 亜鉛・マグネシウム | 不足の補正。亜鉛は長期で1日40mgを超えない(銅が足りなくなります) | 不足している人に○ |
| 夜 | ウリジン+DHA+コリン | シナプス膜の材料。朝にコリンを入れているなら、夜のコリンは減らすか外す | △(人では認知症の入り口のみ) |
| 数週間ごと | アシュワガンダ ⇄ トンカットアリ | ストレスのブレーキを外す期間と、作る側を後押しする期間を交互に | 各成分は○〜△。切り替え自体は未検証 |
まとめ:重ねる前に、この5つ
- 先に測る:総テストステロン・SHBG・ビタミンD・亜鉛・フェリチン(鉄)。詰まっていない場所を外しても、何も起きません
- 一度に一つずつ足す:まとめて始めると、効いたのも副作用が出たのも、どれのせいか分からなくなります
- 同じ副産物を二重にしない:コリン系とカルニチンは、TMAOの材料がかぶります
- 「形」より「量」を確認する:ホウ素は1日10mg、亜鉛は長期で1日40mgまで。B群も「活性型じゃないとダメ」は言い過ぎで、むしろ気にするべきは量です。B6は摂りすぎると手足のしびれが出ることがあり、EFSAは2023年に成人の上限を1日25mgから12mgに引き下げました。B群のサプリには1粒でこれを超えるものも普通にあります
- 薬を飲んでいる人・持病がある人は、始める前に医師か薬剤師へ:特に甲状腺・肝臓・腎臓の病気、血液をサラサラにする薬、血圧の薬
「律速段階を外す」は、詰まりを見つけてから使う道具です。詰まりを確かめないまま全部外そうとすると、それはただの「全部盛り」なんですよね。